RingoStar's diary

映画記録/舞台記録

NTL『みんな我が子』感想

「三十路男のイノセンス

NTL夏祭りで上映していた『みんな我が子』(アーサー・ミュラー原作,2019)を観た。1947年に発表されたもので、アーサー・ミュラーを一躍世に知らしめた作品だそうだ。

戦闘機部品の工場経営で財を築いたケラー家の長男クリスが、戦死した弟の元恋人で幼馴染のアニーと結婚しようとするが、弟の戦死を信じようとしない母や獄中のアニーの父から伝言を受け取ったアニーの兄の妨害にあい、次第に自身の父が犯した罪に気づき、最後には父を拒絶してアニーと独立しようとする、という話。

作中、すでに故人である弟ラリーは一切出てこないものの、その存在感は大きく、彼を中心として結びついていた繋がりが、その存在の空虚さゆえに終盤一気に崩壊していく様が見ものであった。

正直、クリスを見ていて私はかなりイライラしてしまったのだが、それは、親の庇護下にぬくぬくと甘んじ、それでいて親の苦労を気にもかけず自分一人ナイーブでいようとする姿勢や、戦時中なら皆が持ちえたであろう親の瑕疵をひどく責め立て、部下を大勢死なせて生き残った自分に関してはアニーが許してくれたからお咎めなし、という都合の良さに、親に養われつつ文句ばかり言う自分の姿が重なったからかもしれない。

いやしかし、クリスは(作中の台詞から察するに)三十がらみの割といい大人である。親への反抗が無条件に許されるのはせいぜい二十歳くらいまでじゃないか?それに、アホくさパターナリズムがうざったいのは分かるが、あの父はちゃんとクリスを愛していたし、家族のためを思って会社経営を続けてきたんだぞ。(別に父を擁護するつもりはないし、自分のしたことの責任は取るべきだが)あんな最期はあんまりじゃないか。クリスはマンガばかり読んで占星術に凝っているフランクを馬鹿にしていたが、きちんと所帯を持って子どもを三人も養っている分、フランクの方がよっぽど立派だと思う。

しかし、三十路になったとき私はクリスより立派に自立できているだろうか……それが不安になった。

テクスト面以外で言うと、ケラー家の父ジョーにはかなりドナルド・トランプの面影を感じ、この作品を2019年に上演したことの意図が割とストレートに伝わってきた。(とはいえ私は何となくジョーに同情的になってしまったのだが。)ジョーの英語は英弱の私にはかなり聞き取りづらかったのだが、スタッフロールに方言指導(?)が入っていたので、あれがそうなのだろうか。また、舞台セットは家の庭オンリーで、そこで話が進むためあまり画面映えはせず、劇評に「映画的」とあったようにそこまで観客と一体となって舞台を作り上げるという感じではないのもあって客席の熱気や反応といったものも(笑い声はたくさんあったけど)そんなに感じられなかった。